- 国名:日本
種類:中筒/大筒
- 【火縄銃 荻野流傍系八匁中筒 (銃砲刀剣類登録証付古式銃、在銘: 上原君依好 嘉永七寅年二月於東都 江州住國友九左衛門純睦、刻印: 壬申千六百四十八番 深津縣)について】
本品は口径が17.3mm、全長が106.0cm、銃身長が69.5cm、重量約◯◯ kgの中筒としてはほぼ平均的な火縄銃で、抱きかかえるようにして射撃をしたと思われます。 軍用の中筒は6匁筒 (15,8mm)~10匁筒 (18,7mm) 前後で、それ以上は大筒と呼ばれる事もあります。 大筒の定義は定かではありませんが、抱えて射撃の不可能な50匁筒 (33mm) 以上の品を大筒と呼ぶこともあるようです。本品は中筒の定寸口径とも言える十匁(18.3mm)に僅かに及ばない、 八匁(17.3mm)で す。全体的な形状から上野国(群馬県)の荻野六兵衛安重(1613―90年)が興した荻野流傍系でないかと思います。 高島秋帆が荻野流砲術を基に製作した十匁筒を、 天保10年(1839)5月に書き写した「高島所持荻野流拾匁筒之図」に載っている絵図に全体的な形状は似てはいますが、輪束穴はありませんので名称を「荻野流傍系八匁中筒」としました。 山陽地方の中筒でよく見る形状です。 山陽地方の中筒は地元備前鍛治より国友や堺の鉄砲鍛冶の作品が多く、「千切り透かし」の中目当が付いているのも特徴で、本品は国友の在銘品です。
本品は在銘品で、銃身下面には「上原君依好 嘉永七寅年二月於東都 江州住國友九左衛門純睦」の銘が入っています。 國友九左衛門(くにとも きゅうさえもん すみむつ[推測])は江州国友の鉄砲鍛冶の一門で全国鉄砲鍛冶銘鑑P.103に「嘉永二年」の年記入りがあることが記されています。 また全国鉄砲鍛冶銘地域別分類P.96に「江州の鉄砲鍛冶」として記載されており、「國友九左衛門家」は国友鉄砲鍛冶の名家で「純睦」の他に「孝政」「純晴」「重高」「重当」「統睦(純睦と同人?)」がいます。「嘉永二年(1849年)」年の現存品もある事から入り江戸時代後期(特に嘉永年間[,1848-54年])に活躍した国友鉄砲鍛冶と言えます。年記と応需銘は「上原君依好 嘉永七寅年二月於東都」とあり、の「東都」とは西の京都に対して、東の都を意味する江戸を指します。 「上原君の依頼によって嘉永七年(1854年)の寅年の二月に江戸に於いて作る」の意味になります。長銘に加えて年記と応需銘 が入った資料的価値の高い品です。 刀鍛治が他所で作刀する事に比べ、分業制の火縄銃製作において、国友の鉄砲鍛冶が江戸で作銃をする事は非常に珍しいです。また、堂々とした銘切りから真正品と言えます。
本品の筒 (銃身) は後方に向かってやや広がった丸銃身で、その上面だけを平らにした「表一角」と呼ばれる形です。 銃身前部の最も細い部分の外径は約28.4mmで後部の最も太い部分の外径は約41.3mmになっています。 銃口部には立派な八角柑子が設けられ、その後ろ約19mmに幅広の玉縁と呼ばれる環を配しています。 目当は片杉形の先目当に加えて、元目当及び中目当が設けられています。 中目当は遠距離射撃用に設けられたものです。 尚、中目当と元目当はいずれも千切透しとなっています。 銃身は台 (銃床) に対して3か所の目釘により固定される構造となっています。
カラクリは内カラクリ (蟹目カラクリ) で、火挟は筋立された鉄製錆地仕上げです。雨覆は節の入った楔で固定されています。 カラクリの地板金や胴金(幅約12mm)、雨覆、火蓋、楔、引金、芝引金といった部品は真鍮製となっています。 目釘穴周りを含め鋲座金は付かない仕様になっています。 銃身上面には「壬申千六百四十八番 深津縣」の壬申の刻印が入っています。壬申刻印が鏨で比較的大きく銃身上に刻まれているのは山陽地方の特徴です。
明治4年に明治陸軍は主力小銃の統一化を図る為、旧藩に残る銃砲の種類、挺数の把握が急務となりました。 翌明治5年 (1872年、壬申) 1月から、太政官布告第28号第五則の「銃砲取締規則」によって、私蔵されていた銃砲の「我が国初の管理統制」が始まりました。 廃藩時に旧藩は旧家臣に軍用銃を下付した事例が多く見られ、旧士族の家には一挺の軍用銃があったとも言われています。 それらの銃はその後市中に大量に出回り私蔵されていました。 銃砲取締規則ではこれらの私蔵されていた銃砲について、管轄庁 (東京と大阪は武庫司) に持参して改刻印式によって番号、官印を受ける (これが明治5年度であれば壬申刻印と番号) 事が義務付けられました。 同時に管轄庁は同人名と番号を管轄鎮台に届け出て、鎮台より武庫司にそれらが提出される仕組みになっていました。 この調査は明治20年代頃まで銃砲調査が行われましたが、明治5年 (1872年=壬申) の調査が最も大々的に行われ、今日この種類の刻印の内90-95%が壬申の年に行われた事から、古式銃に打たれた漢字の刻印をまとめて「壬申刻印」と呼ばれています。 本品には「壬申千六百四十八番 深津縣」の刻印が入っている事から、深津縣で銃砲調査を受けた事が明らかに判ります。
「深津縣」とはどこでしょうか。 慶応3年(1867年)12月、明治政府の発足時、現在の広島県の県域には、3つの大名領(広島藩・福山藩・豊前中津藩の飛び地)と幕府直轄領がありました。 1869年(明治2年)の版籍奉還、続いて廃藩置県により1871年(明治4年)7月14日に備中国全部と備後国の東部を合わせてに設置された福山縣(備後福山藩)が前身で、明治8年(1875)に岡山県に併合されました。さらに、1876年(明治9年)に、備後6郡が岡山県から広島県に移管され、現在の広島県の県域がほぼ確定しました。「深津縣」は現在の現在の広島県東部にあたります。 深津縣は1871年(明治4年)11月15日に第1次府県統合によって生まれた県です。 1872年(明治5年)6月5日に改称して小田縣となりました。僅か半年間存在した県ですが、明治5年 (1872年) の壬申刻印の時期とも整合性が取れています。昭和36年6月16日に鳥取県で発見された品で、深津縣 の東北部の中国山地を隔てて鳥取県があり、何らかの理由で広島県東部から鳥取県に運ばれたのでしょう。
現存する火縄銃で現在の岡山県を中心に隣接する兵庫県と広島県、更に山口県の壬申刻印が入った銃を多く見ます。 理由としては?? 山陽地方は「銃砲取締規則」の対象となった大口径の火縄銃が明治5年の時点で多かった事。?◆崕橡い隆浜?統制」に積極的であった事が推測されます。 反対に明治5年の「壬申刻印」が少ない縣としては「鹿児島縣」があります。明治六年政変によって鹿児島縣に下野した西郷隆盛は、旧鹿児島城内に陸軍士官養成のための「幼年学校」などを設立したり、独自の軍事化を進めた背景が明治中央政府の主導のもとに行われた「銃砲の管理統制」に従わなかった事に繋がります。明治10年に西南戦争が勃発したこともあり、その後も九州地方での「銃砲の管理統制」が進まなかった背景があります。「壬申刻印」についての将来的な研究対象になればと考えています。 (MM)
【本個体の説明】
本品の筒(銃身)を含む鉄部は黒錆に覆われていますが、これは当時の日本における防錆方法であった錆付けによるもので、欧米のようにブルー仕上げがなかった日本では一般的なものでした。 銃身はやや朽ち込み痕等が見られるものの、大きな欠損等は見られず、しっかりとした状態が保たれています。 銃身下部の目釘金具と目釘穴の位置は三箇所とも一致しています。 尚、真鍮製の目釘が2本付属致しています。 樫材と思われる台 (銃床) は漆で黒っぽく仕上げられています。やや打ち傷や線傷、擦れが見られますが、古式銃として十分に許容範囲で美しい状態が保たれています。 鉄製のカラクリの地板金や胴金、ナマコ金など適度な時代錆が付いた良い雰囲気となっています。
尾栓は現状では固着していますが、ねじ込み部分の基部には大きな錆は出ておらず、外れそうに見えます。 カラクリの作動については完全で火挟を起こした際のロックがしっかりと掛かり、引金を引くとスムーズに火挟が落ちます。火蓋の開閉についても問題なく行う事が可能です。 木製の本歌のカルカ (さく杖) が付属致します。 年記(「寅」以外は)と注文銘の長い銘文も非常にハッキリと確認出来る非常に真面目な一品です。(MM)
【登録証情報】
(種別: 火なわ式銃砲、全長: 105.3cm、銃身長: 69.5cm、口径: 1.8cm、銘文: 嘉永七年二月於東群上原君依好 壬申千六百四十八番深津縣 (表)、江州國友九左衛門純陸 (裏)
【その他の情報】
昭和26年6月16日に鳥取県教育委員会によって交付された銃砲刀剣類登録証が付いた完全可動する実物の古式銃です。 無可動実銃ではありません。古式銃は約150年以上前の古い機械物の骨董品であり、高価な品でございますので、出来ましたら現物をご確認の上、ご購入いただけますようお願いいたします。 無可動実銃とは異なり作動する機械物ですので、作動や仕上げの確認をご自身で行われる事をお勧めいたします。 通信販売でのご購入を検討される方は、詳細画像を十分ご確認いただいた上でご注文ください。
【火縄銃各部名称と有無、形状】
銃身: 鍛鉄丸銃身(表一角)柑子: 八角柑子
玉縁: 鉄
目釘座: 無
矢袋金具: 無
背割金具: 無
胴金: 真鍮 (幅12mm)
火挟: 鉄
胴金後部金具: 無
矢倉鋲座: 無
芝引金: 真鍮 上が帯で後ろが剣先
台カブ飾金具(右): 無
台カブ飾金具(左): 無
火縄通しの穴: 無
鋲座金: 無
地板: 真鍮
カラクリ: 蟹目アリ内カラクリ
疣隠し: 無
背割端金具: 無
矢倉鋲裏座: 無
火縄下げの輪: 無
用心金: 無
用心金座: 無
引金: 真鍮 舌
引金座: 長方形
ナマコ金: 真鍮
駒型金物: 無
- 詳細画像





